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Rêve qui devient réalité [アトラ系プラリア]

前記事のオーディエンスにご協力いただけた皆さまありがとうございました。自分としてもスッキリしておきたいので冬休み明けてからボチボチ書き出してみようかと思います。

さて、一昨年の今頃、ザッピング要素のあるプラリアを書いてみたいなぁ…と思い立ち、『導入→レイニさん視点→過去タウ視点→現実で結ぶ』みたいな起承転結四部構成を考えましてね。しかし書けば書くほどレイニさんが私に都合のいい偽物に思えてしまい、このまま次回作に突入して本物のレイニさんを読んだら更に書けなくなる気もしてて、じゃあもう書けてる起と転だけ繋げて公開しちゃおうかなって。今年はハロウィン絵もクリスマス絵もなかったし、年明けの年賀絵もご用意してないので、そのかわりというかなんというか。アトラのプラリアなんでマテオ民にはつまんないかと思うけど…。だってマテオ参加者の大半が「アトラ読んでない」っておっしゃってたし…。(自PC不在であの分量は読むの挫けるのはとてもわかるよ!運営さんアトラにこそあらすじつけて!)

本当は全体で『Rencontrons-nous dans un rêve』というタイトルにする予定でしたが、タウ視点は時間軸がぐっと遡るので『Rêve qui devient réalité』に変更しました。「rêve」は夢って意味ね。夢から始まるお話。時期はアトラ後日談の数ヵ月後あたり、婚約してて結婚はしてない二人。前半の『起』に当たる部分は三人称だけど『承』に繋ぐために視点はレイニさん寄りで書いてます。

ともあれ、おそらくこれが今年ラストの更新ですよ。皆さまよいお年をー。

*****【Rêve qui devient réalité】*****

 降り立った停留所は目抜き通りに面していて人通りも多かった。案外賑やかな場所に住んでいるのだなと思ったのも束の間、脇道に入ればその喧騒が程よく遠ざかっていく。少し歩くと住宅街に小規模な店舗が点在した別の通りに繋がっていた。落ち着きのある暮らしやすそうな雰囲気に感じられた。
「そこの、角の家です」
 家と言われたが見た目は完全に商店だ。大きく取られた窓にもガラスの嵌め込まれた扉にもカーテンが引かれていて中を伺うことができない。綺麗に保っているようだがどことなく埃っぽさがあって、店を開けなくなって長いことはすぐにわかった。
「いつもは裏口を使っているんですけれど……」
 指で示された方を見やると細い道が奥に続いている。裏口にはそこから回れるようだ。
「今日はこちらから入りましょう」
 タウラスは鍵束の中から大ぶりなものを選んで鍵穴に差し込む。扉を押し開けるとカランと控えめな音色のドアベルが鳴った。
「おかえり」
 途端に掛けられた声に、タウラスの動きが止まる。
「えっと……確か、安静にしているようにって……」
「大丈夫。今日はとても気分もいいから。こんな大事な日に寝てられないもの」
 扉に手を掛けたまま固まってしまった肩越しに様子を覗うと、奥のカウンターに人影がある。目線だけでレイニを振り返ったタウラスが小さく囁いた。
「母、です」
「え?」
 今は独りで住んでいると聞いていたが勘違いだっただろうか。なにかとても重要なことがうやむやになっている。そんな気がしてならない。それでも常々話してみたいと思っていた人物だ。驚きはあるが期待も膨らむ。しかしレイニはハッとした。
 初めて自宅を訪れて、初めて親と顔を合わせる。普通は小綺麗な服を着て畏まった挨拶をし、手土産を渡すなんて流れがあるはずだ。なのに完全に手ぶらで訪れている。
 カウンターからは死角になっているほうの袖を引き、タウラスに目配せする。
「どうしよう、何も用意してきてない……」
 察して顔を寄せるタウラスに小声で告げると、彼のほうもハッとした様子を見せた。
「そう、ですよね……絶対に居ないと思い込んでいて……何故かな?」
 タウラスのほうも困惑している様子だ。本当に不在だと思い込んでいたらしい。お互いに大きな失念をしていたことに慌てるしかない。
「ですが、たぶん、そういったことにはあまり拘らない質だと思います」
「そう言われても……」
 額を付き合わせるようにしてこそこそと話していると、小さな笑い声が聞こえた。
「仲良さそうで安心する。けど、とにかく入ったら? 見られてるから」
 振り返れば、通りを歩く人から好奇の目を向けられていた。いつもは閉ざされている店の扉が開いている。それだけでも珍しいのに、その入口で何事か談じ合っていては嫌でも目立つ。
 改めて扉を開け放したタウラスにどうぞと促された。遮られていた視界が開けて店内の様子が広がる。同時に視線が注がれるのを感じた。見られている、ものすごく。緊張感を覚えながら歩を進め、扉が閉じる気配により緊張した。逃げ場がなくなったような気がして……。
 居ずまいを正し挨拶をと思ったところで、目の前にタウラスの背中が割り込んでくる。
「見すぎだから」
「えー。いいじゃない。減らないでしょ」
「マナーとしてどうかって話」
「とかいって、背中に隠して守っちゃうんだ。いやぁ! なんだろう、母さんが恥ずかしくなってきたぁ! ちょっとぉ、男前じゃないの、うはぁ!」
「……そういうのいいから。落ち着いて、頼むから」
 家族の会話だ。当たり前なのだろうけれど、こんな話し方もするのだと新鮮に思う。
「あのすみません、煩くて。改めて、母、です……」
 げんなりとした様子のタウラスに続いて、カウンターの中の女性が身を乗り出すようにして笑みを浮かべた。
「アリエスといいます。はじめまして」
「はじめまして、レ……」
「レイニさん!」
「は、い」
 名乗る前に名前を呼ばれて、はいとしか言えなかった。
「ようこそ、我が家へ!」

*****

 肌寒さで目が覚めた。タウラスは少しの間ぼんやりと視界に入る物をただ目に映す。空っぽの棚にショーケース。埃避けの布があちこちに掛けてある。昔は背伸びしなくては見えなかった高い棚もがらんとしたままで――店のカウンターの中から見る景色だ。椅子にかけたまま寝入ってしまったらしい。
 久しぶりに早く帰ることができて、いつまでも答えの出ない思案に暮れていたことを思い出した。店を再開しないのならここを売って単身者向けの部屋に移る方がいい。判っていながら動けずにいる。ずっと。

『迷うときは思いきらない!』

 母の言葉が思い出された。後々モヤモヤするから、きちんと心に落ちるものだけ選びとりたいのだと言っていた。妥協せず採択されるのはさほど高価でもない衣服や小物が大半で、お眼鏡にかなって迎えられた物たちは長く大切に使われていた。大胆そうにに見えてそういうところは丁寧な人だった。きっとこの家もそうして選ばれたものの一つだ。

「まだ、思いきる時じゃない……で、いいかな?」

 誰もいない虚空に向けてそう問いかける。
 母が夢に出てきたのは久しぶりだった。本来ならもっと年を重ねているのだろうけれど、亡くなった時のままの姿だった。
 それからもうひとり、誰かを伴っていた。顔も名前も思い出せない。なのに、愛おしく、慈しみたく、共にあることを決めた相手なのだと思えた。

(あのひとではなかったな……)

 身に纏う香りが違っていた。なにかを連想させるどこか落ち着くような快さ――あのひとが纏っていたのはもっと惹きつけるような甘さのある花香だった。
 あのひとと過ごした頃、縁づくことなど考えはしなかった。母を、両親を思い出すこともなかった。考えないようにしていたのだと思う。熱に浮かされるままに危ういと分かりながら突き進んだあの日々のことを、母には決して知られたくなかった。けれど夢の中の女性は母に会わせたいと素直に思える相手のようで――あんな夢をみたのはたぶんそれを望んでいるから。
 あれからずっと流されるままに今を過ごしている気がする。変わろうとすることに言い様のない後ろめたさが募って……。それこそが先に進めない足枷なのだろう。

「まだ、思いきる時じゃないのかな、これも」

 いずれ変わりたいと思える時がおとずれたのなら、それは心にきちんと落ちる出会いのはずだ。そのとき違えずに選びとれればいい。

 すっかり傾いた陽射しがカーテンごしに部屋を茜色に染めていた。暗くなる前に目が覚めてよかった。そう思いながら、立ち上がろうと手をついたカウンターに違和感があった。店内に出るための跳ね上げ天板がわずかに浮いている。持ち上げてみると軽い音とともに何かが床に落ちた。

「……?」

 折り畳まれた紙のようだ。拾い上げて開いてみればそこに並ぶのは見慣れた母の文字だった。

「ガレット……?」

 なぜこんなところにと訝しく思いながらも、懐かしさに胸が綻んだ。両親の故郷でよく食べられていたらしく、タウラスにとっても幼い頃から親しんだ馴染みの味だ。母が亡くなってからはあまり口にしていない。
 母は死期を覚っていた節があった。材料や手順のほかにも随分細な添え書きがされている様子から、遺される息子の為にと書き残してくれたことが察せられた。定番の具材から変わり種まで数枚に渡っている。
 明日からの遠征先は海が近かったはずだ。帰りにガレットのために魚介を揃えるのもいいかもしれない。そう考えてふと思い至った。

「あぁ。海、かな」

 夢にみた女性の纏う香り。どこか懐かしく、愛おしい、暖かみのある香り。懐の深い海のようなひとなのかもしれない。

「いつか貴女にガレットを振る舞う日がくるのかな」

 緩く笑んで、タウラスは手帳にレシピをはさみこんだ。

*****
突然時間軸がねじ曲がって洪水前、アルザラ港方面に向かう準備時期のタウ視点でした。夢ってなんでもありにできて便利だね!『承』が抜けるとチンプンカンプンですが、夢の続きでレイニさんがガレットを知り、『結』で現実の現時間なタウの手帳からレシピが出てくる流れで、振る舞わず作ってもらおうね!って後記でツッコミいれるとこまで予定してました。

おフランスの家庭料理も地方によっていろいろありますが、ア・クシャスの気候ならソバは育てやすいと思いガレットを採用。しかし次回作でタウを投入した場合、生き残る自信があまりないので(うちのPCおそらく両作ともギリギリ死亡回避判定になってるから三度目はおまけ判定もないんじゃないかと思うし…)探索船出航前に食べさせてもらっているといいなぁ…。いまのうちに平穏な時期をじっくり過ごしておいてくれ。

ところで前半と後半でセリフ前後の行間の取り方が違っているんですが、ブログでも読みやすい気がしていつもは敢えて後半の書き方をしているものの、前半は行間があると座りが悪かったんですよね。モノローグ少な目に書いたからなのか、登場人物が3人以上いるからなのか、なんでだろ?
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