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アラシノマエ【南至SS】 [PBWのSS]

ホムペサービス終了らしいのでブログに移したSSシリーズ。

引っ越し作業してて、なんしーのSSわりと書いているんだな…って思った。はじめて涙目でロール書いたPCなので、文章にまとめることで消化したかったことが多かったんだと思う。私の箱庭の始まり的なPCである。
末尾にメモってある秋田商業出身の好きな投手は、後に石川兄弟の苗字としても使わせてもらいました。当時めっちゃ燕球団が好きだったのよ。外野で傘ふるの大好きだった!

*****【アラシノマエ】*****

「そこだ、まわれ!」
 麦茶をとりに階下へ降りてきた至の耳に、キン、という金属バット特有の音と、妹の黄色い声がきこえてきた。
 見れば薫が、テレビにかじりつかんばかりに詰めよって、腕をふりまわしている。
 最近はもっぱら高校野球にキャーキャーと言っているらしい。
「どっち応援してんの? いま打ってるほう?」
「そう、秋田商業」
 画面はほぼ薫にかくされているが、赤いロゴのユニフォームが打席に立っていることだけはかろうじて確認できる。
 3回裏、得点はまだゼロのまま動いておらず、ランナーが二塁に出ているようだ。
「麦茶飲む?」
「うん、ほしー」
 グラスに麦茶を用意してやると、薫はようやくテレビの前からテーブルのほうへやってくる。
 そして、ふと何かを思い出したような顔でこちらを見やり、首を傾けてみせた。
「お兄ちゃんさぁ、なんであのとき柔道にしたの? 野球って選択もあったんでしょう?」
「うぇ?」
 唐突な質問に、至は口に運びかけたグラスをそのままテーブルにもどす。
「リトルリーグか、柔道教室か、どっちかって話だったじゃん、たしか」
 小学4年に進級する直前の春休み、親に手をひかれて見学に行ったのはたしかにリトルリーグと柔道教室だった。
 南家から歩いて通える範囲にあったのが、たまたまその二つだったからだ。
「なんでって…野球だと、待ってるのが面倒だなって思ったんだったかな」
「待つ?」
 意味を図り損ねたらしく、薫が眉をぐぐっと歪める。
「ボールがとんでくるのとか、打席にたつまでとか、そもそもベンチからだしてもらえるかとか」
「出してもらえるかじゃなくって、出さずにはいられないように仕向けるのよ、もうー」
「うん、だから、出られたとしても9人いたらボールにさわれる確率はひくいだろ? 柔道は出れば確実に1対1だから」
「ふぅん…それなりに考えて決めたんだね、意外にも」
 一言多い感想を述べ、麦茶を一口のみこんで、薫は更に首を傾げる
「でも、なんでやめちゃったの? ずーっと続いてたのにさぁ」
「まぁ、なんとなく…」
 語るか語るまいか迷っていると、テレビからわっと歓声があがるのが聞えてくる。
「あ! やったぁ先制点!」
 それで、すっかり意識が試合にもどってしまったらしい薫は、グラスを片手にまた、いそいそと画面につめよっていってしまった。
「ホントに、なんとなくなんだよなぁ…」
 妹の背中を見送って、至はポツリと呟く。
 中学での目標はまず黒帯に昇段することで、それがなにやら最初の試験であっさり通ってしまったせいもあったと思う。
 次の目標を定めきれずにいたところに、受験と進学が重なったのもタイミングが悪かった気がする。
 そういう状況で、入学式に山ほどもらった勧誘チラシを眺めていて、気付いていないだけで柔道よりも好きなものが潜んではいまいかと、なんとなく思ったのだ。
 それで、なんとなく、ちょっと立ち止まって周りをみてみようかなと、そう思った。
 結局ほかの部にするのも決め兼ねて、そのままズルズルと無所属でいるのだけれど。
 それでも、帰宅部には帰宅部の面白味があることは、それなりにわかってきた。
 親にまかせきりだった飼い犬の世話をマメにできるようになったのも大きい。
 至が帰宅部になって一番喜んでいるのは案外ロクかもしれない。
「ねー、おにーちゃんさぁ、これから野球はじめるっていうのはー? 柔道よか野球のほうがもてるって、絶対」
「野球は…見るほうがすきだし」
「じゃあ、サッカーとか…ってサッカー顔じゃないよね、おにーちゃんは。あとテニスも絶対やめてほしいカンジ」
 スポーツは顔でするもんじゃないだろう…と、口をつきかけた言葉を、麦茶とともに飲み下す。
「バスケとかバレーも身長がそれだと不利だよね、きっと」
 なにやら余計なお世話なことを連発する薫に、適当に相槌をうちながら、至は窓の外、まだ高い陽射しに目を細めた。
(もうちょっと日がかげったら、ロクの散歩にいかないとなぁ…)
 コクリと麦茶を飲み干す至の耳に、キン、と金属バットの音がまたひとつ響いた。

 至に怒涛のような変化がおとずれるのは、夏休みが開けて、もう少ししてからのお話。

*****
なんすぃが高校で柔道をやらないのはなぜか…の解明編。
ぶっちゃけ部活入ってたら監察隊に見向きもしなかっただろうしー
ってだけの理由なんですが、それを後付けでカバーしてみたのコト。
ちなみに秋田商業は単なるシュミです。好きな投手の出身校なのよ。
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