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ミズヨウカン【伊崎史SS】 [PBWのSS]

旧ホムペサービス終了につきお引越しさせてるSSシリーズ。

史のSSいっこしかなかった!彼女はうちのこの中ではわりとめずらしいタイプじゃないかな?
こぢんまりとした印象の容姿で、性格は『ほややんと控えめ』ってメモってある。『物事を自分なりに噛み砕こうとするため、なにかにつけて人より行動がノロい。動じていないように見えて、その直後にやたらとテンパりだしたりと、後ろズレなテンポの持ち主』ってプロフに書いてある。動じない印象が強かったのか周りからは「まぁ史ちゃんだからね」って言われていた気がするw

史もNPCよりはPCと仲良くしてもらった印象が強いです。SSに出てくる名前も全員PCさんですもの。

*****【ミズヨウカン】*****

「マリちゃん先輩は、お菓子つくるの上手?」
 いつもどおりにチマチマした仕草で、しかし遠慮なく3年の教室に入ってきた史は、なんの前触れもなくそう問い掛けてきた。
「お菓子? そうねぇ、ものによるけど…」
 いったんは言葉を濁した真理だが、なにかピンときたのか次にはニコリと微笑む。
「役立たずではないと思うわ」
 なにせ今日は2月13日。この時期につくる菓子といえばチョコレートが王道だろう。
「本当? じゃあ、帰りにお買い物するところからお手伝いしてもらってもいーぃ?」
「いいわよ」
「んとんと、それじゃぁ、帰りにクツバコのとこね」
 勝手に真理の手をとって、ユビキリゲンマンとお約束のフレーズを歌った史は、満足気な笑みをみせると、来た時と同じく唐突に帰っていく。
 黄色い帽子や紺色のスモックを違和感なく着こなすだろう風体に時折忘れかけそうになるが、史もああみえてお年頃なのだ。
 とうとうチョコを渡す相手ができたらしい。しかも手作りとはまた、随分と気合がはいっている。
「ふみちゃんも成長してるのね…」
 半ば親心気味にしみじみと思い、真理は自分の教室へと戻っていく史の背中を見送った。

 …というやりとりがあったのが、今日の昼休み。

「で、なんで小豆なわけ?」
「だって、水羊羹にはアンコでしょう?」
 お徳用の小豆の袋を手に、さもあたりまえという様子で史が答える。
 半ばつられるように「そうねぇ」と頷いてしまってから、真理はとりつくろうようにひとつ咳払いをし、手押しのカートに上体を凭せかけた。
「でも、ふみちゃん、チョコのかわりに水羊羹は渋すぎるんじゃなぁい?」
「そうかなぁ?」
 真理がもたれかかるカートのカゴに、小豆の袋をいれながら、史が小首を傾げる。
 傾げたまま、黒目がクルリと天井へ向けられ、んーと唸り、
「チョコレート味の水羊羹だったらおいしいかもしれないねぇ…」
 最終的にほわっと和んだ表情…あくまでも水羊羹らしい。
 チョコ味の羊羹はすでに羊羹とは別物のようにも思うのだが、ここはあまり気に止めず、チョコレートムースも増殖させる準備でも整えておいたほうがいいだろう。
「ふみちゃんの同類項は特殊だものね」
「ん? なぁに?」
「なんでもない。水羊羹もゼラチンまぜるとモッチリしておいしいらしいわよ? ついでにいうと小豆から炊くんじゃ大仕事だから、餡子を買うのをおすすめするけど」
 真理は、史が寒天を物色する棚からゼラチンを手にとりカゴにほうりこんだ。

 …というやりとりがあったのが、今日の放課後。
 その更に数時間後、真理はふぅと額の汗をぬぐっていた。

「完成」
「すごいねぇ、ちゃんとできてる」
 水羊羹とチョコレートムースが並ぶ作業台を満足気に眺め、史は他人事のようにペチペチと拍手などしている。
 途中、夏の名残で冷蔵庫に入りっぱなしだったらしい、メロンとイチゴのシロップを投入する提案があったが、おぞましいものの製作に至らずに済んだのは、真理の巧みな軌道修正の賜物だった。
 紆余曲折あったが、どちらも真理の苦労を十分に労えるだけの出来だ。
「誰にあげてもはずかしくない出来よね」
「そうだねぇ…いっぱいできたからコウちゃんにもおすそ分けしようかなぁ」
「あら、オチャヅケくんにはおすそわけなのね?」
 実は少しばかり、本命はオチャヅケくんこと渡部浩太なのかと思っていたので、思わずそう問い掛けてしまったのだが、史は言葉の意味を取り違えたらしく、つつーっとカップをふたつ真理の前へと押しやる。
「マリちゃんにもちゃんとおすそわけです、どーぞ」
「ありがと」
 …といっても、大半は真理が作ったのでおすそわけされているのは材料費くらいなのだが…。
 目の前に並ぶ水羊羹とチョコレートムースに視線を落として、真理は少しばかり目をすがめる。
「ねぇ、ふみちゃん? おすそわけってことは、おすそわけじゃない人もいるってことよねぇ?」
「うぅん、おすそわけじゃない人はいないよ」
「じゃあ、なんだってわざわざこの時期に手作りなのよ」
「ん? 自分のためだよー?」
 そういえば、史の誕生日が近いという話を浩太にきいた気がする。
 ひつじ形のミトンを間に合わせるつもりだと、お裁縫の貴公子は手際よく編物をしていたはずだ。
 ふと見やれば、ダイニングの椅子にかけられた史の鞄から、ひょっこりと白い毛玉がのぞいている。
「ふみちゃん、誕生日今日だったの?」
「うん。毎年プレゼントといっしょにチョコはいっぱいもらうの。だから自分から自分には好きなものをあげようって思って」
「へぇ、ふみちゃん羊羹がすきだったのね…」
 史らしいと納得し、ほんわかしかけて、真理はブンとひとつ首をふる。
「…って、そういうのは先に言うもんでしょうに、何にも用意してないじゃないのよ!」
「マリちゃん先輩には作り方をプレゼントしてもらったからいーの」
 言いながら、そこらにあった木ベラで食べ難そうに水羊羹を口に運ぶ史は、嬉しそうだ。
 なにはともあれ、幸か不幸か、誕生日を共にすごす相手を拝命したのは確からしい。
 真理は複雑な気分でスプーンを差し出し、溜息をつく。
「それにしたって、なんだか色気のない誕生日ねぇ」
「んとんと、それは、マリちゃんはお色気担当じゃないってこと?」
「失礼ね、ふみちゃんよりは兼ね備えてるでしょうに! そもそもふみちゃんがアタシの色気を理解できてれば、今だって水羊羹づくりにあまんじてたりしないわよ!」
「ふぅん、そうなんだ」
「そうよ、たぶんそう!」
 なんとなく悔しさも手伝ってそう言い切ると、史はなにやら難しい顔つきで眉を寄せ、いいにくそうに口を開く。
「ていうかね、マリちゃん…オカマさんにお色気が足りないってなかなか致命的だと思うの」
 だから、足りてないんじゃなくて、アンタの感知能力がトコトン低いだけなんだってば!
 ズビシとツッコミたい衝動にかられたが、史の心底同情するような表情を前に、真理はもはや苦笑するしかなかった。
「そうね、精進するわ」

*****
マリちゃんはちゃんとお色気もあるのよ、大丈夫なの!…とフォローしてみる。
本編で甲斐甲斐しくホモップルのお世話をしていた真理ちゃんにならば、
史のお世話…基、お守もお手の物だろうと思って書いてみたものデス。
つか、マリちゃんの苦労さえ棚上げれば、案外うまくいくカプにも見える(笑)
結局のところマリちゃんは本格的にオカマなのかオネェ言葉なだけなのか、
そのあたりが本編稼動中には見極めきれなかったのが残念ですよ。
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