おとうさんにできること [アトラ系プラリア]
エロに帰結しないお話が仕上がりました。
後日談から三年後、出産のため滞在中の村でのお話。
チャットでわりと触れられていたお料理ネタです。
後日談でセルジオくんが考えていた
『味見や、余計なアレンジは一切せず、
分量をきっちり守れば料理も上手いんじゃないのかなぁ』
というのを実践してみました。
なので、おそらく今回のお料理のレシピ監修とアドバイスは
ミコナちゃんとセルジオくんだと思われます。
中間イベントで提出したアクションには
「自作料理(見目抜群で複雑怪奇味)」と書いてあるので
レシピ通り作ると、味はよくて見た目に難ありパターンかと…。
*****【おとうさんにできること】*****
その日、レイニは、カチャカチャと食器の触れ合う音で目が覚めた。
見回すと、窓からは夕焼けが差し込んで、部屋中を赤く染めている。
近頃、前駆陣痛のおかげで夜の睡眠が浅く、すっかり寝入ってしまっていたようだ。
肌掛けを畳み、重いお腹を抱えるようにしてソファーから立ちあがる。
キッチンを覗くと、夫であるタウラスが洗い物をしていた。
傍らの調理台には皿に盛られた何かが一品おいてある――なんだろう、これは…。
「…汚泥?」
「オムレツです」
ためすがめつ眺めてみるが、それはどの角度からみても立派な汚泥でしかなかった。
混沌とした塊に散見する黄色味から、卵らしさも感じ取れなくはないのだが…。、
ともかくとてつもなくグチャドロ~っとしていて、不味そう以外の言葉が浮かばない。
「レシピ通りに作ったのに、オムレツらしくならなくて…」
夫が繁々と眺めている紙片を「見せて」と奪い取る。
書き付けられた材料も分量も至極まっとうなものだった。手順も間違ってはいない。
「本当にこの通りに作った?」
「先に全て量って揃えてから作りました」
その言葉が本当なら味はまだ希望が持てるのか…。
しかし汚泥を前に食指はとうてい動きそうにないし、忘れもしないあの日のスープの味が甦る。
「あのさ、あなたは料理はしなくていいって、常々言ってるわよね?」
「そうなんだけど、少し思うところあって…」
彼はそう言いながら、すっかり丸く張っているレイニのお腹に掌を添わせた。
「今のままだと、この子にお腹が空いたと言われても、俺はなにもしてあげられない」
しょんぼりとした様子は本当に悩んでいるようだ。
「料理しない父親なんて珍しくもないでしょ」
「そうなんだ。それもよくわからなくて…。父親って、どうあるべきものなのかな」
幼いころに父を亡くしている彼は、残された手紙と母の話でしか父の記憶がないらしい。
それ故に、生まれてくる我が子にどう接すべきか、なにをしてあげるべきか、ここのところずっと迷っているようだ。
「別に、こうあるべきってものはないんじゃない?」
「そんな曖昧じゃ、いい父親を目指せない」
「そんなの目指さなくても、ただあなたらしくしていればいいじゃない」
お腹に触れたままの彼の手に、レイニは自分の掌を重ねる。
「あのね、愛してあげるだけでいいの。愛して、信てあげれば、それで。あなただって、お父様の手紙から愛情を感じていたんでしょ?」
「母が愛されているのはとても感じましたけど。生まれる前に書かれたもののほうが多かったからなぁ…」
貿易に携わっていた父は家を長く空けることも多く、タウラスが産まれた時も不在だったという。命名さえも手紙でやりとりしたらしかった。
それでも渡航先からの手紙には多くの言葉が書き連ねられていたし、生まれてからの手紙には、いつも末尾に『Mon trésor』と添えられていた。宝と思うほどに愛されていたのだと、改めて感じ入る。
「大丈夫。顔を見たら嫌でも愛しくてたまらなくなるから。この子が一番としか思えなくなるはずよ」
「でも…俺にとっては、貴女が一番なのは覆らないと思う。貴女の興味が全部この子に向いてしまったとしても」
そう言って、レイニを引き寄せたタウラスが苦笑を浮かべる。
ちょうど正面から対峙した二人の間に、膨らんだお腹が挟まっているようだった。
「生まれる前から割り込まれてる」
お腹分だけ常とは遠い距離を、顔を寄せるようにして縮めていく。
その時、どん、と衝撃があった――お腹の中から。
突然の激しい胎動に二人で固まる。
「元気ね。そろそろ収まってもいい時期なんだけど…生まれるまで暴れるタイプかな」
「愛せる自信が揺らぐなぁ…」
「あなたのお父さんはなかなか面倒な人だから、少し気を使ってあげて?」
レイニはお腹をさすってそう語りかけてから、タウラスの頬を両手で挟みこみ引き寄せた。軽く唇を触れさせて「はい、おしまい」と告げる。
「で、この…オムレツ? は、どうするの?」
「食べますよ」
食べるにはかなり勇気が必要な見た目だが、彼は添えられていたスプーンで掬い取ったそれを躊躇なく口に運んだ。
「特別美味しくはありません。不味くもありません。食べられます」
「あなたは、常にそうでしょ」
「美味しいものはわかります。不味くても食べられるだけです」
確かに普段レイニが作る料理を誉めながら食べる様子に嘘は見えず、旨味そのものは理解しているようにも思える。
レイニも少しばかり興味がわいてくる。スプーンを手に取り、ほんの僅かだけ掬ってみた。
「衝撃的すぎて産気づいたらどうしよう」
「一応、出産の流れは頭にはいってますけど…」
おそるおそる口に運んでみる。
卵と、キノコと、ひき肉と、玉ねぎ、ほどよく混じりあった、よくある素朴な味だった。
「…うん、普通にオムレツの味」
「特別に美味しくはないでしょう?」
「そうね、普通。普通に美味しい」
レイニはもう一口、今度はしっかりとスプーンに掬いとり口に運ぶ。その様子にタウラスの瞳に自信が宿ったようだった。
「このレシピ通りなら食べさせても問題なさそうですね」
「そうねー、これを食べられるようになるのはまだ先だけど。それと、子供用ならもう少し薄味のほうがいいわね」
自信を湛えてレシピに注がれていた視線が、途端に困った風にレイニに向けられる。
「薄味だとレシピ通りには作れません」
「うん、だからもう、諦めなさい」
しょんぼり肩をおとす夫の背中を、レイニは笑いながらポンポンと叩いて宥めた。
「あなたにしかできないことも沢山あるはずだから、頑張って、お父さん」
――数年後、タウラスが愛息子から『おんなのこのくどきかたおしえて!』と言われるのは、また別のお話。
*****
アッシュって名前のメモに数年後のセリフが書かれていたんだよ。
そのメモによるとアッシュのお目当てはピスカちゃんっぽかったよ。
そして、三年たってもデスマス口調は抜けきらないタウなのでした。
後日談から三年後、出産のため滞在中の村でのお話。
チャットでわりと触れられていたお料理ネタです。
後日談でセルジオくんが考えていた
『味見や、余計なアレンジは一切せず、
分量をきっちり守れば料理も上手いんじゃないのかなぁ』
というのを実践してみました。
なので、おそらく今回のお料理のレシピ監修とアドバイスは
ミコナちゃんとセルジオくんだと思われます。
中間イベントで提出したアクションには
「自作料理(見目抜群で複雑怪奇味)」と書いてあるので
レシピ通り作ると、味はよくて見た目に難ありパターンかと…。
*****【おとうさんにできること】*****
その日、レイニは、カチャカチャと食器の触れ合う音で目が覚めた。
見回すと、窓からは夕焼けが差し込んで、部屋中を赤く染めている。
近頃、前駆陣痛のおかげで夜の睡眠が浅く、すっかり寝入ってしまっていたようだ。
肌掛けを畳み、重いお腹を抱えるようにしてソファーから立ちあがる。
キッチンを覗くと、夫であるタウラスが洗い物をしていた。
傍らの調理台には皿に盛られた何かが一品おいてある――なんだろう、これは…。
「…汚泥?」
「オムレツです」
ためすがめつ眺めてみるが、それはどの角度からみても立派な汚泥でしかなかった。
混沌とした塊に散見する黄色味から、卵らしさも感じ取れなくはないのだが…。、
ともかくとてつもなくグチャドロ~っとしていて、不味そう以外の言葉が浮かばない。
「レシピ通りに作ったのに、オムレツらしくならなくて…」
夫が繁々と眺めている紙片を「見せて」と奪い取る。
書き付けられた材料も分量も至極まっとうなものだった。手順も間違ってはいない。
「本当にこの通りに作った?」
「先に全て量って揃えてから作りました」
その言葉が本当なら味はまだ希望が持てるのか…。
しかし汚泥を前に食指はとうてい動きそうにないし、忘れもしないあの日のスープの味が甦る。
「あのさ、あなたは料理はしなくていいって、常々言ってるわよね?」
「そうなんだけど、少し思うところあって…」
彼はそう言いながら、すっかり丸く張っているレイニのお腹に掌を添わせた。
「今のままだと、この子にお腹が空いたと言われても、俺はなにもしてあげられない」
しょんぼりとした様子は本当に悩んでいるようだ。
「料理しない父親なんて珍しくもないでしょ」
「そうなんだ。それもよくわからなくて…。父親って、どうあるべきものなのかな」
幼いころに父を亡くしている彼は、残された手紙と母の話でしか父の記憶がないらしい。
それ故に、生まれてくる我が子にどう接すべきか、なにをしてあげるべきか、ここのところずっと迷っているようだ。
「別に、こうあるべきってものはないんじゃない?」
「そんな曖昧じゃ、いい父親を目指せない」
「そんなの目指さなくても、ただあなたらしくしていればいいじゃない」
お腹に触れたままの彼の手に、レイニは自分の掌を重ねる。
「あのね、愛してあげるだけでいいの。愛して、信てあげれば、それで。あなただって、お父様の手紙から愛情を感じていたんでしょ?」
「母が愛されているのはとても感じましたけど。生まれる前に書かれたもののほうが多かったからなぁ…」
貿易に携わっていた父は家を長く空けることも多く、タウラスが産まれた時も不在だったという。命名さえも手紙でやりとりしたらしかった。
それでも渡航先からの手紙には多くの言葉が書き連ねられていたし、生まれてからの手紙には、いつも末尾に『Mon trésor』と添えられていた。宝と思うほどに愛されていたのだと、改めて感じ入る。
「大丈夫。顔を見たら嫌でも愛しくてたまらなくなるから。この子が一番としか思えなくなるはずよ」
「でも…俺にとっては、貴女が一番なのは覆らないと思う。貴女の興味が全部この子に向いてしまったとしても」
そう言って、レイニを引き寄せたタウラスが苦笑を浮かべる。
ちょうど正面から対峙した二人の間に、膨らんだお腹が挟まっているようだった。
「生まれる前から割り込まれてる」
お腹分だけ常とは遠い距離を、顔を寄せるようにして縮めていく。
その時、どん、と衝撃があった――お腹の中から。
突然の激しい胎動に二人で固まる。
「元気ね。そろそろ収まってもいい時期なんだけど…生まれるまで暴れるタイプかな」
「愛せる自信が揺らぐなぁ…」
「あなたのお父さんはなかなか面倒な人だから、少し気を使ってあげて?」
レイニはお腹をさすってそう語りかけてから、タウラスの頬を両手で挟みこみ引き寄せた。軽く唇を触れさせて「はい、おしまい」と告げる。
「で、この…オムレツ? は、どうするの?」
「食べますよ」
食べるにはかなり勇気が必要な見た目だが、彼は添えられていたスプーンで掬い取ったそれを躊躇なく口に運んだ。
「特別美味しくはありません。不味くもありません。食べられます」
「あなたは、常にそうでしょ」
「美味しいものはわかります。不味くても食べられるだけです」
確かに普段レイニが作る料理を誉めながら食べる様子に嘘は見えず、旨味そのものは理解しているようにも思える。
レイニも少しばかり興味がわいてくる。スプーンを手に取り、ほんの僅かだけ掬ってみた。
「衝撃的すぎて産気づいたらどうしよう」
「一応、出産の流れは頭にはいってますけど…」
おそるおそる口に運んでみる。
卵と、キノコと、ひき肉と、玉ねぎ、ほどよく混じりあった、よくある素朴な味だった。
「…うん、普通にオムレツの味」
「特別に美味しくはないでしょう?」
「そうね、普通。普通に美味しい」
レイニはもう一口、今度はしっかりとスプーンに掬いとり口に運ぶ。その様子にタウラスの瞳に自信が宿ったようだった。
「このレシピ通りなら食べさせても問題なさそうですね」
「そうねー、これを食べられるようになるのはまだ先だけど。それと、子供用ならもう少し薄味のほうがいいわね」
自信を湛えてレシピに注がれていた視線が、途端に困った風にレイニに向けられる。
「薄味だとレシピ通りには作れません」
「うん、だからもう、諦めなさい」
しょんぼり肩をおとす夫の背中を、レイニは笑いながらポンポンと叩いて宥めた。
「あなたにしかできないことも沢山あるはずだから、頑張って、お父さん」
――数年後、タウラスが愛息子から『おんなのこのくどきかたおしえて!』と言われるのは、また別のお話。
*****
アッシュって名前のメモに数年後のセリフが書かれていたんだよ。
そのメモによるとアッシュのお目当てはピスカちゃんっぽかったよ。
そして、三年たってもデスマス口調は抜けきらないタウなのでした。
2016-06-23 09:00
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