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お金がない [アトラ系プラリア]

船での探索が公共事業でなかった場合、
ルワール家は極貧になることに気が付いた。

村長辞職で夫婦揃って無職になるんだもんな…。
DINKs時代に頑張って貯金してたとして、
船の維持費や人件費ですぐ底つくよね。
そもそも船造りも私財だったら貯金なさそうだ。

まだ家のローンが残ってるのに!
もうすぐ子供が産まれてくるというのに!

で、バカバカしい話が書きたくなりました。
またレイニさん臨月時期のお話だよ。
あ、勤務形態とか語ってますが、ねつ造です。
半パラレルコメディだから深く考えてはいけません。

*****【お金がない】*****

「収入を増やさないとまずいです」
「そうよね…」
「差し当たって思い付くものを書き出してみました」

 レイニはタウラスがテーブルの上に提示したメモを引き寄せた。

 1、病院の勤務時間を増やす
 2、食堂で皿洗いと給士
 3、マナー講師
 4、ダンス講師
 5、ハーブティーの処方(執事喫茶)

「こうして見ると、あなたの得意分野って優雅というか…暢気なことばかりね」
「ですよね。自分でも驚きました、改めて」

 可笑しそうに微笑む様子に、もっと危機感を持てと言いたくなる。
 まず一番以外に探索船で重宝される要素が見当たらない。
 そもそも村に滞在する時期は、収入と知識を得るために病院に常勤させてもらっている。いわゆる研修医のような状況だ。
 時間を増やすといってもこれ以上どうしようもない気がするが…。

「勤務時間ってどうやって増やすの?」
「夜間の急患を全部引き受けるくらいでしょうね…待機扱いで時間給を得られるとベストなんですけど」
「急患はそんなに居ないんじゃない? あっても、あなたじゃ対応しきれない気がする」

 本当に緊急を要する場合は結局オリンに頼ることになるだろう。師事して知識を得てはいるものの、そもそもの経験値が違いすぎる。
 二番は彼でなくともできるだろうし、常勤の仕事がある以上割ける時間も限りがある。それに雇用主の性格を考えると大幅な収入には繋がらなさそうだ。
 残りは島で生きていくにはあってもなくてもいい知識と技能に思えた。
 彼の知識は社交文化に偏りすぎている。大陸の歴史を学ぶ一環として、学園で臨時授業として組み込んでもらうのも良いのかもしれないが…あくまで臨時でヒトコマ程度、収入としては頼りない。

「このさ、最後の執事喫茶ってなんなの?」
「大陸でメイド喫茶が流行ったの知りませんか? 俺は男だから、執事かなって」
「そんなこともあった気がするけど、想像つかない…」

 そこはあったことにしてもらはないと困る、書いてる人が。
 謎の当局の圧力で流行ったことに決定したものの、生憎レイニは件の喫茶に行ったこともなければ詳しくもなかった。

「ちょっと試してみましょうか」
「うーん…」

 どこか楽しそうにそう提案されて、レイニは気のない返事をした。
 なんだろう…嫌な予感しかなかった。

*****

 暫し待たされた後ダイニングに招き入れられると、タウラスは腰から折って頭を下げる最敬礼をしてみせた。
 着替えもしたらしく上下ともに黒系の服をカッチリ着こなしている。

「お帰りなさいませ、お嬢様」
「……誰が?」
「貴女が。これが定番のフレーズなんです」

 そう言われても、お嬢様ではないし、お嬢様呼ばわりされる歳でもない。表情にでていたのか、タウラスはうーんと唸る。

「仕方ないですね…別バージョンでいきましょう。お帰りなさいませ、奥様」

 普通だなとレイニは思った。真実、自分は彼の妻なのだし、ここは我が家なのだから。
 椅子を引かれ促される。腰掛けようとするとスッとその椅子が押し出された。
 昔々、前夫に同伴した高級店がこんな感じだったなと思い出す。
 慇懃な所作で膝にナプキンを掛けられた。

「お飲み物はいかがいたしましょう?」
「何があるの?」
「本日ご用意できるのは、ラズベリーリーフのみでございます」

 選択肢はなかった。聞いたくせに。

「じゃあ聞かないでよ」
「何種類か準備する予定なんです。今日はカモミールティーもあったんですけど、レイニさんには出せないし」
「なんで? 嫌いじゃないけど」
「妊婦には禁忌です。でも、ラズベリーリーフは後期からならお奨めですよ、臨月には特に。お産を軽くすると言われてますから」

 無駄な知識ばかりでもないようだ。
 何に効果があり何に禁忌なのか、ハーブごとに記憶しているのだろう。
 ハーブの種類を増やせば、ちょっとした体調の悩みに合わせて振る舞うこともできそうな気がする。実際メモにもハーブティーの処方と本人が書いていたはずだ。

「ねぇ、これさぁ、普通にハーブティー屋さんじゃ駄目なの?」
「普通より儲かるはずなんですよ、このほうが」

 なるほど。目的は収入アップなのだから、より稼げる方向を目指しているのか。
 病院のことを考えると、この喫茶はおそらく休息日にしか営業できない。

「例えば、フレーバーティーを注文されるとスペシャルメニューが発生するんです」
「どんな?」
「お砂糖はおいくつですか? ですね」
「う、ん?」

 頷いたものの、意味がわからない。

「執事がお好みの数の砂糖を入れてさしあげるのは別料金です」
「なんでよ」

 そんな横暴なことあっていいのか。
 それに執事が砂糖を入れるとはどんな状況なのだろう…自分でぱぱっと入れてくるくるっとしてお仕舞いじゃないのだろうか。

「一匙ずつ丁寧に入れていくんです。もうひとつですか? 承知しました…なんて言いながら。そのあと丁寧にかき混ぜます。美味しくなーれ、です」
「ごめん、ちょっと、よくわからない…」
「要はサービス料ですよ。手を加えるだけ料金アップになるんです」
「へー」

 生温い返事を返すだけで精一杯だった。
 そうこうしているうちに、準備の整ったらしいラズベリーリーフティーが運ばれてくる。

「お待たせいたしました、奥様」

 空のカップとソーサが配膳され、高い位置で傾けられたティーポットから、するすると液体が注がれた。
 こういう手際や所作のスマートさは素直に感心できるものだ。

「参考までに聞くけど、ほかにどんなスペシャルメニューがあるの?」
「それはまだ思案中なんですけど…執事らしくて、有無を言わさずがっちり徴収できるお世話の方法を、もっと考えないといけないですね」

 涼しい顔をしてがめついことを言う夫に、レイニはもはやつっこむ気にもなれなかった。
 無言のまま注がれたお茶を口に含み、カップをソーサーにもどす。
 そのタイミングで不意にタウラスの瞳がすぅっと細められた。
 レイニの耳裏をなでた指先が顎にまで滑りおりる。

「奥様でしたら、特別に、夜伽まで承ることもできますが…」
「遠慮しとく」

レイニは呆れ顔で顎にかかる手を押し退けた。

*****
結局レイニさんに触りたいだけの人だった! 知ってたけど!
涼しい顔してがめついこと言うPCはゲンゲンだけじゃなかったようだ。
臨月じゃなければ男装喫茶でレイニさんに給仕を任せるほうが儲かりそうだよね。
そして私は、こういうノリのややパラレルな話が肌にあっているのだった。
極貧ルワール家シリーズ化できないものか…。

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