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心残りを補完すべし。【プラリア試作】 [アトラ・ハシス]

アトラに関してのなによりの心残り、それはね…。

『私、あなたに、好きという言葉を貰った覚えも、
 交際を申し込まれた覚えもないけれど、
 プロポーズは受け入れた……と思ってる』

このセリフだよ。

一足飛びにプロポーズになった最大の理由は、私の力量不足です。
「つきあってほしい」と言うタウの姿が全然想像できなかったから。
書いたけどなんかチープになっちゃったんだよ、たしか。
当時の私には交際を申し込む従者の台詞が捻り出せなかったのです。
結婚してほしいと懇願する流れのほうが素直に言葉が降りてきたの。

交際前、素の状態で「愛してる」はなかなか言わないと思います。
言うなら漱石さんの「月が綺麗ですね」くらい変化球になると思うんだ。
そして、口ではオブラート変化球だけど、手は出てると思うんだ。
日本語でなければいけると思うんだけどね! 日本語奥ゆかしいからね!

でもさぁ、あんなこと言われたら、タウ本人も気にしてるはずなのよ。
なので、「好きです」と「交際してください」を形にしたくなりまして。
途中書きで保存されていたネタをちょっと詰めてみました。

状況的には披露宴の後、もらった鍵で部屋を訪ねたところです。
「そのうちドレスも見せてくださいね」は絶対言ってると思うんです。
そして23歳の健全な男子は、もうけっこう我慢が限界です(笑)

鍵もらう流れからして、おそらく一線超えてませんよね、この人達。
花摘みから挙式が5日間あって、探索はさらにその前だからね。
むしろ、おま!よく耐えてるな!と褒めてあげたいくらいだよ。

*****

「タウラス? すぐに行くから、少し待っていて」

 奥の部屋から届いた声に「判りました」と答えて、改めて室内を見渡した。
 目に慣れはじめたこの部屋は、中央に据えられた大きなソファーが一際目立つ。
 一人のベッドでは寝つけないと話していたが、まだ、このソファーで眠っているのだろうか…。
 頻繁に訪れるようになったものの、タウラスはまだこの部屋で夜を明かしたことはない。
 彼女は村人達の目を気にしている節があり、どこか関係の進展を躊躇しているように感じているからだ。
 男として見られていなかったらしいから、すぐに全ては切り替えられないのかもしれない。
 それでも――胸ポケットの上から鍵の感触を確かめる。これは、合意と受け止めていいのだろうか…。

「お待たせ」

 振り返り、部屋の境に佇むレイニの姿に目を瞠った。
 身にまとっているのは華やかなドレスだ。

「見たいって言ってくれたでしょ? そのうちじゃなくて、今日にしてみたわ」

 言いながら、ドレスの裾を少し持ち上げて、タウラスの方へと歩み寄ってくる。

「よく、お似合いです…」

 施されたメイクはいつもより艶やかで、緩く纏められた髪も常とは違う新鮮さで色っぽい。遅れ毛のかかる項や、露出した肩の滑らかな肌が目に眩しかった。
 身体に添うドレスラインを辿ると、つい開いた胸元や華奢な腰に目線が向きそうになる。
 スタイルの良さに気づいてはいたが目の当たりにするとクるものがある。
 これは、思った以上に……脱がせたい…。
 不埒なことを考えかけて、打ち消そうと瞬きを繰り返す。訪問して直ぐに迫るのはいくらなんでも性急すぎるだろう。

「それだけ?」
「…え?」
「だから、他にもうちょっと感想はないのかなあ?」

 不機嫌さを感じさせる声音に、下心を見抜かれたのかと焦ったが、単純に言葉足らずなのが不服だったらしい。タウラスは内心で胸を撫で下ろした。

「すみません、その、見惚れてしまって…やっぱり、今日は俺の服で隠してしまってよかった…。貴女が魅力的なのは皆さん充分ご存知でしょうけれど、その艶やかな姿に魅せられる方が増えたら困ります」
「いやー流石にそんなことは…あはは」
「何故ないと思うんですか? こんなに綺麗なのに」

 レイニは戸惑った。
 滑らかに紡ぎ出される台詞の端々に、むず痒くなる言葉が散りばめられていて、なんというか温度差を感じる。この男に誉められるときはそれなりに心の準備をすべきなのかもしれない。

「あ、ありがとう。万が一言い寄られたら、もう結婚の予定があるってちゃんと断るから。だから、次にああいう機会があったら…ドレス、着てもいい?」
「その時は、隣を離れないと約束してください」
「うん、努力はする」
「努力…ですか」
「じっとしてられない質なの知ってるでしょ? それに、私としてはあなたの方がよっぽど心配なんだけど。今日だって沢山の女の子を侍らせてたじゃない?」

 棘のある言葉だ。昼間女性に囲まれたのは例の薬のせいなのだが、レイニはその事実を知らない。

「あぁ…あれには、わけがあって…。それより、改めてお伝えしておきたいことがあるんです」

 言葉を濁す様子に訝しさを覚えるが、続く真剣な面持ちにレイニは口をつぐんだ。
 黙ったまま目顔で何と訊ねる。

「聞いてもらえますか?」

 問いかけに頷くと、タウラスは両手でレイニの左手を掬い取り、その場に跪いた。
 下から見上げてくるオリーブ色の瞳に、真っすぐ射貫かれる。

「レイニさん、貴女が好きです…誰よりも。結婚を前提に、交際していただけますか?」

 突然のことにレイニはポカンと呆けた。
 一拍おいて、昼間、彼に言ったことを思い出す。
『私、あなたに、好きという言葉を貰った覚えも、交際を申し込まれた覚えもないけれど』
 だから、好きだと、恋人としてつきあってほしいと、改めて伝えようとしているのか…。
 でもこれは、告白でも交際の申し込みでもなく、やはりプロポーズではないだろうか。
 変なところで律儀だなと内心で苦笑していると、跪いたままのタウラスが不安気に首を傾げる。

「返事はいただけないんですか?」
「あぁ、ええと…もちろん。あなたが、それでいいのなら…」
「…光栄です。Mon amour.」

 あの時と同じ返事をすると、聞きなれない言葉とともに甲に口づけを落とされた。

「なに? モナム?」
「『Mon amour』…愛しい人、という意味です。両親の故郷の古い言葉らしくて。父から母に宛てた手紙の末尾によく添えられていました」
「そう、ご両親の。…でも、それって、ラブレターかなにかじゃないの? 息子のあなたが読んでいいものだったの?」
「読み聞かせてくれたのは母本人ですから。『Mon amour』は配偶者や恋人に呼びかけるのに日常的に使われていた言葉らしいです。他にも『Ma bien aimée』とか『Mon trésor』とか…」

 不思議な響きの言葉は、どこか囁くようだ。
 タウラスの穏やかで優し気な声で紡がれると、ストンとおさまりがよく聞こえ、耳に心地いい。

「いまのはどんな意味なの?」
「いまのは……掛けて話しましょうか」

 レイニの腰に自然と腕が添えられる。いつもどおりの手慣れたエスコートだ。
 ソファーに導かれ腰かけると、そのままタウラスも寄り添うように隣に座った。

「『Ma bien aimée』は最愛の人。『Mon trésor』は私の宝」
「へぇ…あなたのお父様は随分情熱的だったのね」
「どうなんでしょう? 母曰く晩熟で苦労したそうなので。移住してきてから同郷者の寄合いがあって、その時に壁の大木になっていた父を、母から誘いにいったのが最初らしくて…」
「大木?」
「壁の花なら可愛いけれど、大木が固まってて悪目立ちしてた、と、よく言っていました」
「かわいいじゃない、固まる大木。…じゃあ、お母さまが積極的で、お父様の手紙はそれに応えていたってことなのね」
「ええ、たぶん。口べただったぶん手紙は沢山書いたようです。残っていたものは全部母の棺にいれましたけど…」

 あれからもう随分経つけれど、たくさんの愛を語る、癖のある字が思い出される。
 結婚を決めたら、二人の眠る墓標に報告に行くのだと思っていた。
 あなたたちのような夫婦になりますと。伴侶を慈しみ愛し続けることを教えてくれたのは両親だったから。

「再婚はまったく考えなかったと言っていましたから。父に繋がるものはできるだけ一緒に納めてあげようと思って」

 言いながら、タウラスの両手がレイニの身体を引き寄せる。
 強引な力強さはまるでなく、不安を隠して囲い込むような力加減だとレイニは感じた。

「レイニさん…」
「なに?」

 今度はなにに不安を感じているのか…まわされた腕に手を添えて、タウラスの胸に背中を預ける。

「本当に、いいんですか」
「なにが?」
「あなたも、ずっと、忘れられないから、しなかったのでしょう…再婚」

 言葉を選びながら、途切れ途切れに紡がれた問いかけは、前夫を思惟してのことなのだろう。
まだ気持ちが残っていると慮っているのかもしれない。


*****
えーとね、この問いに、レイニさんがどう答えるのかに躓きました。
10年ぶりにマスターにお尋ね申していいものかしら…。
身勝手妄想で先も書き進めて完結してるんだけど、ちょっとここまでで止めておく。
告白は「好きです」よりも「誰よりも」がミソです。
日本語じゃない言語としては、愛の国おフランス語を借りてみました。

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