Dear Rainey, [アトラ系プラリア]
夏休み前に書きあがってたストックのラストです。
タラシと思われてるのをなんとかするお話。
手紙魔の父の息子はやはり手紙魔なようです。
大陸と島で言葉も文字も共通してるので
昔々の大昔、全世界が統合されるような大繁栄をして、
各地域の言語は残りながらも、共通言語ができて、
なんらかの事態で壊滅したのかも…と思ったりもした。
永い周期で天変地異が繰り返されてる世界かもしれない、とか。
そんな勝手な妄想は置いといて…。
共通語というとやはり英語をイメージしてしまうので、
宛名(タイトルも)は英語表記にしました。
「手紙」「恋文」みたいな単語タイトルも迷ったのだけど。
レイニさん好き好きと伝える話だから、名前にしたよ。
姓をいれてないのはわざと。
村の女性への宛名はフルネームいれてると思います。
内容も簡潔に、便箋に余白も残しながら一枚きり。
レイニさん宛は数枚にわたりびっしり気味な雰囲気です。
でも、本人的にはまだ伝え足りないくらいに思ってるはず。
照れは私の中のタウに捨てさせられた。
(公開したプラリアの大半はそんなパターンですけど…)
レイニさんを不安にさせたくないのだと訴えられました。
前のブログでは恥ずかしくて出せなかったと思うけど、
すっかりオバチャンの図太さを身に付けたから公開するよ。
*****【Dear Rainey,】*****
レイニが部屋に帰ると、タウラスがテーブルに拡げた便箋を前に思案に暮れていた。
傍らに置かれた手紙の束から、村の女性達への返事だと察する。
「また、食事に誘ってくださいーってやつね」
「逆です。ご一緒できませんを、どう書いたら一番不快にさせないかと悩んでるんです」
タウラスは自分から積極的に誰かを誘うことはあまりないが、誘いを断ることもあまりない。
ひとえに断りの文句を考えるのが苦手なせいだ。
相手を落胆させるのではないかと思うとどうしても躊躇ってしまう。
それなら、スケジュールを詰めてでも応じた方が、相手も自分も気分がいいのではと考えてしまうからだ。
「食事、すぐ出来るから。そこ、早めに片付けてね」
レイニの物言いが少し冷たく聞こえて、タウラスは顔には出さず消沈する。
その思いとは裏腹に、つい嬉しさも感じてしまっていた。
「判りました」
キッチンに向かう背中にそう答えて、便箋に目を落とす。
断りの手紙だからこそここで書く気になったのだけれど、いずれにしろ、この部屋で他の女性に宛てた手紙を書いていることにかわりなく、それはレイニにとって面白いことではないのかもしれない。
そして、面白くないと思われることが嬉しい。
彼女の気持ちが自分に向いていることの顕れだから。
そういえば、彼女にはまだ手紙を書いたことがない。
一番、身近にいたはずなのに、一度も。
*****
食事を終えて、二人分のグラスにワインを注ぎ入れると、いつもどおりにボトルはレイニの手元に引寄せられてしまった。
ワインのサーブは本来男の役目だ。それが当たり前だと思って生きてきたから、これをされるとどうも落ち着かない。
「前から言おうと思っていたんですけど…。俺、そんなに弱くないですよ」
常々気になっていたことだ。
保養所のパーティーでの失態が尾を引いているのだろう。
飲めばそれなりに気が大きくなったりはするけれど、記憶が飛ぶようなことは滅多にない。
グラスに口をつけたレイニから疑わしそうな視線を送られて、タウラスは苦笑する。
「あの日は本当にかなり飲んだんです。とにかく全員のところへ廻るつもりでいたから。それで、勧めにいけば勧め返されて……全員廻りきれたのかな…そのあたりは覚えてなくて…」
結構な数のグラスを空けたと思う。種類も雑多だった。
ボトルに換算したらどれくらいになるのだろう。
一人で相当な本数を空けているのかもしれない。
「半ばくらいから、まずいなとは思っていたんですけど」
「そう思うなら、断ればよかったじゃない」
「…断ることが苦手なんです。なににつけても」
食事の誘いや酒の勧めは言うまでもなく。交渉中に言うべきことを隠したのだって、気持ちを酌んだら隠すことを断れなかったからだった。
レイニはそれもわかってくれるのではという甘えがあったのだと思う。
他者優先主義なタウラスが、レイニのことは優先しなかった。そういう意味で、レイニはわりに初めから、他の人物とは違う扱いをしていたのだと思う。
少なくとも、他者よりは自分に近かったのだろう。
でも今は、誰よりも優先したいと思っている。
主よりも、だ。
「それに、皆を知るいい機会だったから…。酒宴は人の距離を縮めるでしょう? 残念ながら語らった内容をほぼ覚えてないんですけど…」
「徒労ね。でも、それで女の子と食事に行く口実もたくさんできて、あなたとしては無駄ではなかったんじゃない?」
にっこりと返される。苦笑で返すしかない。
『誘ってください』は社交辞令のつもりだった。大陸ではその手のリップサービスは普通のことだったし、本当に誘われることの方が稀だったから。
「そうですね。俺には料理は向かない事が判って、皆さんとも食事を通じて話すことも増えて、前より打ち解けられたんじゃないかと思えます」
だからあの醜態も失敗ではなかったのだ、概ねは。
失敗だとすれば、唯一――。
「唯一、貴女に誤解されたことは失敗でした」
たぶんレイニには女好きだと思われている。
貴女だけと示しているつもりでも、どこかで疑われている。
半分ほど残っていたワインを一息に空けてから、タウラスはソファーから立ち上がった。
「手紙を届けてきます」
そう告げるとレイニは目を円くする。
「こんな時間に?」
「こんな時間だから。直接、会わないで、済みますよね…」
どういう好意にしろ無下にするのは申し訳ない。
そんな手紙を面と向かって手渡すのはやはり心苦しい。
だから、人目につかない時間に、誰にも会わないように置いてきたかった。
向かいのソファーに座るレイニに歩み寄る。
「これは、レイニさん宛。…いってきます」
手にしていた封筒の一つを渡し、きょとんとしている間に、顎を上向かせて唇を掠めとった。
不意打ちに、目を伏せることも出来なかったせいか、レイニの瞳が忙しく瞬きを繰り返す。
「戻るまで、読みながら待っていてください」
そう言い残して、タウラスは扉を閉めた。
レイニは手の中の封筒に視線を落とす。
――Dear Rainey,
見慣れた補佐の字だ。
執務室で毎日のように目にしている。
でも、こんなふうに名前を書かれるのは初めての事かもしれない。
封を切って便箋を開く。
少し角張った、几帳面さを感じさせる文字が、思いの外長く綴られているようだ。
『手紙を差し上げるのは初めてですね』という言葉から始まった文面は、当たり障りのない季節の様子に触れ、先日振る舞った料理を誉めて、また食べたいと続いていた。
『どんなに貴女を見詰めているか、知ってください』
唐突に、脈絡を考えない様子の文言が現れた。
なんだろうと読み進める。
『面と向かって伝えると、恥ずかしがらせてしまう気がするから』
そう前置いて、そこから先は、彼の目に映るレイニの姿がひたすらに書かれはじめる。
『俺の好きな貴女。
まずは、意外と照れ屋なところ。
キスをするとき、少し身構えるところ。
不意打ちしたときの、忙しない瞬き。
ドレスがとても似合うこと。
俺の服も似合うこと。
目線の近さ。
なにか思い付いて煌めく眼。
思いたったら一直線な危うさ。
なのに、待っていてくれる、優しさ。
叱咤するときの真剣さ。』
尽きることなく文字は続く。
惜しみなく、率直に。
貴女のここが好きなのだと、思いつくままに書き連ねたのだとわかる。
便箋を捲ってもまだ続く。
『繋いだ手の心地。
俺の傷をなでる指。
踵の傷痕。
前向きな強さ。
たまに見せてくれる弱さ。
時々、嫉妬してくれているのかと感じること。
ごめんなさい、不安にさせていますか?
心配しないで、本当に、貴女だけだから。
でも、妬いてもらえるのは、嬉しい。
唇の柔らかさ、甘さ。
名前を呼んでくれる声。
まだ書き足りないけれど、もう君が来てしまいそうだから、今日はここまで。』
ここで、この手紙が、さっきこのテーブルで書かれたのだと判った。
「片付いた?」と顔を覗かせたとき、「もう終わります」と答えたのは、この手紙のことだったらしい。
『いけない、とても大事なことを書き忘れるところでした。
俺を選んでくれたこと。』
慌てたのか少し雑な字が紙面を踊る。
そして、こう結ばれていた。
最後はいつもどおりの、彼らしい丁寧な字で。
『貴女に出逢えたことに心から感謝します。
Mon amour.』
それが、タウラスがレイニに贈った最初の恋文――。
*****
お酒が弱い設定は特にないんですよ。
アクションにも「我を忘れるほど飲んだら」と書いてるし。
なので、どんだけ飲んだのだ!…と思っていました(笑)
飲ませた方がリップサービスが増すので、
大陸ではシールにわざと飲まされていたと思うけど。
あと、行ってきますのキスは良い効果が沢山あるそうです。
事故防止とか寿命が延びるなんてデータもあるんだってさ。
歳月を経てもそれだけは続けてくれてると嬉しいなと思います。
タラシと思われてるのをなんとかするお話。
手紙魔の父の息子はやはり手紙魔なようです。
大陸と島で言葉も文字も共通してるので
昔々の大昔、全世界が統合されるような大繁栄をして、
各地域の言語は残りながらも、共通言語ができて、
なんらかの事態で壊滅したのかも…と思ったりもした。
永い周期で天変地異が繰り返されてる世界かもしれない、とか。
そんな勝手な妄想は置いといて…。
共通語というとやはり英語をイメージしてしまうので、
宛名(タイトルも)は英語表記にしました。
「手紙」「恋文」みたいな単語タイトルも迷ったのだけど。
レイニさん好き好きと伝える話だから、名前にしたよ。
姓をいれてないのはわざと。
村の女性への宛名はフルネームいれてると思います。
内容も簡潔に、便箋に余白も残しながら一枚きり。
レイニさん宛は数枚にわたりびっしり気味な雰囲気です。
でも、本人的にはまだ伝え足りないくらいに思ってるはず。
照れは私の中のタウに捨てさせられた。
(公開したプラリアの大半はそんなパターンですけど…)
レイニさんを不安にさせたくないのだと訴えられました。
前のブログでは恥ずかしくて出せなかったと思うけど、
すっかりオバチャンの図太さを身に付けたから公開するよ。
*****【Dear Rainey,】*****
レイニが部屋に帰ると、タウラスがテーブルに拡げた便箋を前に思案に暮れていた。
傍らに置かれた手紙の束から、村の女性達への返事だと察する。
「また、食事に誘ってくださいーってやつね」
「逆です。ご一緒できませんを、どう書いたら一番不快にさせないかと悩んでるんです」
タウラスは自分から積極的に誰かを誘うことはあまりないが、誘いを断ることもあまりない。
ひとえに断りの文句を考えるのが苦手なせいだ。
相手を落胆させるのではないかと思うとどうしても躊躇ってしまう。
それなら、スケジュールを詰めてでも応じた方が、相手も自分も気分がいいのではと考えてしまうからだ。
「食事、すぐ出来るから。そこ、早めに片付けてね」
レイニの物言いが少し冷たく聞こえて、タウラスは顔には出さず消沈する。
その思いとは裏腹に、つい嬉しさも感じてしまっていた。
「判りました」
キッチンに向かう背中にそう答えて、便箋に目を落とす。
断りの手紙だからこそここで書く気になったのだけれど、いずれにしろ、この部屋で他の女性に宛てた手紙を書いていることにかわりなく、それはレイニにとって面白いことではないのかもしれない。
そして、面白くないと思われることが嬉しい。
彼女の気持ちが自分に向いていることの顕れだから。
そういえば、彼女にはまだ手紙を書いたことがない。
一番、身近にいたはずなのに、一度も。
*****
食事を終えて、二人分のグラスにワインを注ぎ入れると、いつもどおりにボトルはレイニの手元に引寄せられてしまった。
ワインのサーブは本来男の役目だ。それが当たり前だと思って生きてきたから、これをされるとどうも落ち着かない。
「前から言おうと思っていたんですけど…。俺、そんなに弱くないですよ」
常々気になっていたことだ。
保養所のパーティーでの失態が尾を引いているのだろう。
飲めばそれなりに気が大きくなったりはするけれど、記憶が飛ぶようなことは滅多にない。
グラスに口をつけたレイニから疑わしそうな視線を送られて、タウラスは苦笑する。
「あの日は本当にかなり飲んだんです。とにかく全員のところへ廻るつもりでいたから。それで、勧めにいけば勧め返されて……全員廻りきれたのかな…そのあたりは覚えてなくて…」
結構な数のグラスを空けたと思う。種類も雑多だった。
ボトルに換算したらどれくらいになるのだろう。
一人で相当な本数を空けているのかもしれない。
「半ばくらいから、まずいなとは思っていたんですけど」
「そう思うなら、断ればよかったじゃない」
「…断ることが苦手なんです。なににつけても」
食事の誘いや酒の勧めは言うまでもなく。交渉中に言うべきことを隠したのだって、気持ちを酌んだら隠すことを断れなかったからだった。
レイニはそれもわかってくれるのではという甘えがあったのだと思う。
他者優先主義なタウラスが、レイニのことは優先しなかった。そういう意味で、レイニはわりに初めから、他の人物とは違う扱いをしていたのだと思う。
少なくとも、他者よりは自分に近かったのだろう。
でも今は、誰よりも優先したいと思っている。
主よりも、だ。
「それに、皆を知るいい機会だったから…。酒宴は人の距離を縮めるでしょう? 残念ながら語らった内容をほぼ覚えてないんですけど…」
「徒労ね。でも、それで女の子と食事に行く口実もたくさんできて、あなたとしては無駄ではなかったんじゃない?」
にっこりと返される。苦笑で返すしかない。
『誘ってください』は社交辞令のつもりだった。大陸ではその手のリップサービスは普通のことだったし、本当に誘われることの方が稀だったから。
「そうですね。俺には料理は向かない事が判って、皆さんとも食事を通じて話すことも増えて、前より打ち解けられたんじゃないかと思えます」
だからあの醜態も失敗ではなかったのだ、概ねは。
失敗だとすれば、唯一――。
「唯一、貴女に誤解されたことは失敗でした」
たぶんレイニには女好きだと思われている。
貴女だけと示しているつもりでも、どこかで疑われている。
半分ほど残っていたワインを一息に空けてから、タウラスはソファーから立ち上がった。
「手紙を届けてきます」
そう告げるとレイニは目を円くする。
「こんな時間に?」
「こんな時間だから。直接、会わないで、済みますよね…」
どういう好意にしろ無下にするのは申し訳ない。
そんな手紙を面と向かって手渡すのはやはり心苦しい。
だから、人目につかない時間に、誰にも会わないように置いてきたかった。
向かいのソファーに座るレイニに歩み寄る。
「これは、レイニさん宛。…いってきます」
手にしていた封筒の一つを渡し、きょとんとしている間に、顎を上向かせて唇を掠めとった。
不意打ちに、目を伏せることも出来なかったせいか、レイニの瞳が忙しく瞬きを繰り返す。
「戻るまで、読みながら待っていてください」
そう言い残して、タウラスは扉を閉めた。
レイニは手の中の封筒に視線を落とす。
――Dear Rainey,
見慣れた補佐の字だ。
執務室で毎日のように目にしている。
でも、こんなふうに名前を書かれるのは初めての事かもしれない。
封を切って便箋を開く。
少し角張った、几帳面さを感じさせる文字が、思いの外長く綴られているようだ。
『手紙を差し上げるのは初めてですね』という言葉から始まった文面は、当たり障りのない季節の様子に触れ、先日振る舞った料理を誉めて、また食べたいと続いていた。
『どんなに貴女を見詰めているか、知ってください』
唐突に、脈絡を考えない様子の文言が現れた。
なんだろうと読み進める。
『面と向かって伝えると、恥ずかしがらせてしまう気がするから』
そう前置いて、そこから先は、彼の目に映るレイニの姿がひたすらに書かれはじめる。
『俺の好きな貴女。
まずは、意外と照れ屋なところ。
キスをするとき、少し身構えるところ。
不意打ちしたときの、忙しない瞬き。
ドレスがとても似合うこと。
俺の服も似合うこと。
目線の近さ。
なにか思い付いて煌めく眼。
思いたったら一直線な危うさ。
なのに、待っていてくれる、優しさ。
叱咤するときの真剣さ。』
尽きることなく文字は続く。
惜しみなく、率直に。
貴女のここが好きなのだと、思いつくままに書き連ねたのだとわかる。
便箋を捲ってもまだ続く。
『繋いだ手の心地。
俺の傷をなでる指。
踵の傷痕。
前向きな強さ。
たまに見せてくれる弱さ。
時々、嫉妬してくれているのかと感じること。
ごめんなさい、不安にさせていますか?
心配しないで、本当に、貴女だけだから。
でも、妬いてもらえるのは、嬉しい。
唇の柔らかさ、甘さ。
名前を呼んでくれる声。
まだ書き足りないけれど、もう君が来てしまいそうだから、今日はここまで。』
ここで、この手紙が、さっきこのテーブルで書かれたのだと判った。
「片付いた?」と顔を覗かせたとき、「もう終わります」と答えたのは、この手紙のことだったらしい。
『いけない、とても大事なことを書き忘れるところでした。
俺を選んでくれたこと。』
慌てたのか少し雑な字が紙面を踊る。
そして、こう結ばれていた。
最後はいつもどおりの、彼らしい丁寧な字で。
『貴女に出逢えたことに心から感謝します。
Mon amour.』
それが、タウラスがレイニに贈った最初の恋文――。
*****
お酒が弱い設定は特にないんですよ。
アクションにも「我を忘れるほど飲んだら」と書いてるし。
なので、どんだけ飲んだのだ!…と思っていました(笑)
飲ませた方がリップサービスが増すので、
大陸ではシールにわざと飲まされていたと思うけど。
あと、行ってきますのキスは良い効果が沢山あるそうです。
事故防止とか寿命が延びるなんてデータもあるんだってさ。
歳月を経てもそれだけは続けてくれてると嬉しいなと思います。
2016-09-05 16:42
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