SSブログ

ことほぎ [アトラ系プラリア]

誰かさんのお誕生日なのでプラリアを書きました。

書き出しを日付超えてすぐにしたせいか、コレを書いてるときの脳内ソングはドリカムでした。学生の頃、誕生日近くにカラオケにいくと友達が歌ってくれた懐かしい曲。
私自身は当時はリンドバーグが好きでこっちを歌うことが多かったです。アクション時は意識してませんでしたが、「ありがとう」って伝える歌詞があったりして、多感なお年頃にきいていた曲による刷り込みを感じました。

例によってメリッサしかでてきませんが、今回のは欝々とはしてないので安心して読めると思うよ。

*****【ことほぎ】*****

 人工太陽が沈んでもう随分たつ。そろそろ日付を跨いだ頃だろう。
 窓を開ければ途端に冷気が流れ込んで、首をすくめながら領主の館の方角に目を凝らす。真砂の二階からは遠すぎて、形をとらえることもできないけれど。

「お誕生日おめでとう」

 冷えた外気に呼気が白く広がった。息がたゆたう様は言葉ごと世界に溶けていくように見えて。

「ここに生まれてきてくれてありがとう」

 溶けた想いが届かないかと、少しでも遠くに送れないかと、白い靄に向けてフーッと息を吹きかける。
 誕生日を迎えるたび両親が与え続けてくれたのは手放しの肯定で、不甲斐ない人生を自負するメリッサは、かかさず送られる寿祝ぎに随分と救われてきた。ただ此処に在ること、それだけでいいのだと誇らしく思わせてくれるものだったから。
 何もない空を緩く抱き締める仕草をして目を伏せる。

『悪くないな、それ』

 耳に残る声。なにが悪くなかったのか、実はずっと測りかねている。メリッサ自身が寿祝ぎに感じてきた良さとは違う気はしているけれど……彼の言葉はメリッサにはいつも難しくて悩ましい。ただ、悪くなかったのなら、嫌ではなかったのなら、もっと抱きしめていてあげたかった。

「……汗くさくないハグ、してあげたかったよね」

 苦笑いで腕を解く。
 本当は、クライミングに誕生日を指定してしまおうか迷った。プレゼントを――契約書を渡す名目があれば変じゃない。けれど、契約書はメリッサが無理矢理作ったしがらみで、それを解消するつきあいに大切な日を使わせてはいけない、そう思ってやめた。やめて、よかった。あの日を心から楽しんだのはきっとメリッサだけだから。”次”があることを嬉しく思いながら、楽しめない事に巻き込んだ現実に胸が軋んだ。

「結局、私のほうがプレゼントもらっただけなんだよね」

 人生最高の頂上は間違いなくあの日に味わった。マテオ・テーペよりも高く、難易度の高い山にだって挑んできたけれど、あれほどの多幸感はなかった。そもそも契約を完遂できていないのに、登頂を促してくれただけで十分に恵まれている。本当に先がないのなら、彼が今しておくべきもっと大切なことが他に沢山あるはずだから。

「約束、守ってくれて、私の望みを叶えてくれて、ありがと……」

 呼気が広がり、消える。
 マテオ・テーペに登れたらもうそれでいい。ここに来た意味を達成できれば悔いなく終われる。そう思っていたはずなのに、いつの間にか拘りたいものが変わってしまった。
 彼の中ではもう来年はないものと決まっているらしい。今日を逃したら誕生日に直接「おめでとう」と言える機会はきっとない。
 会いたい気持ちは絶え間なく溢れている。次を促されたのだし会いに行っても許されるように思う。けれどメリッサの気持ちだけで安易に誘うことは憚られた。近付けそうで遠ざけられることを繰り返しすぎて、なおさらわからない。
 刻々と減っていく時間をあとどれくらいなら分けてもらえるだろう。わずかな時間なら……? いつものように待ち伏せて、やっぱり当日伝えたくなったから、それだけ、またね! とすぐに帰れば……?

「そんなに時間かかんないよね、それなら」

 彼はここのところずっと館に籠っている。外で待ったところで会えるとは限らない。会えたとしてもなんの用だと一蹴されるのかもしれない。でも、悪くなかったのなら――。

「笑ってくれるかも……」

 大切な今日を照らす新しい太陽が昇ったら――。

「うん。その前に温泉行こう! 絶対いいニオイのハグにする!」

*****
汗クサイを上書きしたいオトメゴコロw
アクション冒頭に『誕生日当日』の5文字を入れるか否か迷い、結局消して提出しました。理由は本文にあるとおり。
登頂を促す手紙をもらったとき「しがらみを無くして逝く準備」と感じて、嬉しさよりも悲しさが上回っていました。
そして儀式の時に「まだ約束守ってくれてない!死ぬなんて許さない!」って叱咤するための布石を潰されちゃうなって困ってました。
なので実はあまり登りたくなかった。
離れ離れになった今としては、あれを経て彼以外あり得ないと思い知ったエピになったので、登っておいてよかったと思ってます。
いやしかし、ご本人の登場しない誕生日ネタって難しいね!

コメント(0) 

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

モデルのお話八回考察リターンズ ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。